太陽がちょうどてっぺんに来た頃、新青梅街道を走ると、少し夏の香りがしました。
ここのところ秋めいて薄くたなびいてた雲も、丸さを取り戻そうとし、公園の付近で耳を澄ませば、秋の虫に混じってまだ蝉も鳴いていました。日差しが出れば、じんわりと汗ばみます。
もし、鉄塔に季語があるとしたら、夏だと思う。
鉄塔は、夏休みに子供達がする小さな冒険のシンボルマークのような気がします。トムソーヤの小屋のように、日本の子供達の冒険には鉄塔がつきもの。映画やアニメ、マンガなど、夏休みをテーマにしたものには、かなりの確率で鉄塔が出てきます。
どこまで続いているんだろう…。そんな冒険心を、子供の心の中に芽生えさせる為のスイッチのようです。
冒険の前に腹ごしらえ。これはきっと世界共通のハズ。
新青梅街道を走っていると山崎パンの工場があり、パンのあのいい香りが漂ってきます。当然お腹も空くわけで…山崎パンの角を曲がってしばらく行った所ある、一軒家のカフェに入ることにしました。
お店の名はワーズワース。イギリスの詩人の名前がついた、このお店、なんとなくイングリッシュガーデンのような佇まいではないですか。
そういえば、かつてフジテレビで「ワーズワースの冒険」という番組がありましたね。冒険というキーワードが繋がっていきます。
天井は高く、広々とした空間。
都心のカフェでは、一休みしようと思って入ったのに、まわりのせせこましさに、逆にイラっとしてしまう事もあるけれど、ここは正真正銘、のんびりする為の空間。
まだ冒険する前なのに、まったりしてしまいます。
さてさて、ホットサンドで腹ごしらえ。ホットサンドは通常、食パン2枚に具材を挟んで、半分に切られて出てきます。お腹が空いていたので、この日は、2倍盛りの具材2種類を選びました。
つまり、3角の物が4つ。700円。
アイスコーヒー込みで、1230円。
通常のホットサンドならセットにしても、1000円以下です。
具材の大きなサンドイッチは、手作り感満載で、食べ応えあり。パンだと思って油断していたのですが、思っていたよりボリュームもありました。少し食べ過ぎましたね。でも、お腹が満たされると穏やかな気分に。本当に冒険の旅に出られるのでしょうか?
■ワーズワース
■東京都東久留米市柳窪1-7-29
■営業:10:00~19:00
■定休日:月曜
■場所はこのへん
お店を出て冒険を始めれば、5分もしないうちに夏休みの風景を発見!どこから、どう見ても夏の光景でしょ。川面を鴨がのんびりと泳いでいます。
ここは市内を流れる黒目川の上流。あえてコンクリートの土手を外して里山の風景を作り出した親水公園。当初は人の手で作られた自然もどきだったのですが、そこに自然の力が加わり、今や自然そのもの。
今回、東久留米を選んだのは、実はこの黒目川が大きく関係しています。
この夏公開され話題になった、原恵一監督のアニメ映画「カラフル」。
クレヨンしんちゃんの『嵐を呼ぶ モーレツ!オトナ帝国の逆襲』の監督です。さらに『嵐を呼ぶ アッパレ!戦国大合戦』では、PTAの子供に見せたくない番組ランキング常連でもある『クレヨンしんちゃん』で、文化庁メディア芸術祭アニメ部門大賞受賞。
大人も泣けるアニメとして定評のある原監督作品ですが、実は、見逃していた作品がありました。それが「河童のクゥと夏休み」。遅ればせながらこの作品を観ました。
涙しました。
子供のためのファンタジーだけでなく、人間の醜さや恐ろしさも描き、胸に突き刺さる作品。
舞台は、この東久留米の黒目川周辺で、夏休みの間に巻き起こった出来事を描いた作品ですが、今ならまだその夏の風景に間に合うかもしれないと、自転車を走らせたくなった訳です。
…と言っても、3年前の夏の作品なんですけど、見たばかりだから感動は新鮮なまま。リアルタイム気分なのです。
物語は黒目川の、もう少し下流からスタート。
主人公は、小学5年の上原康一。ひょんなことからこの川へ靴を落とし、拾いに行くのだけど、つまづいた石の中から、干からびた亀の化石のような物を発見。自宅にて持ち帰った化石を洗っていたところ、それが河童だと言うことに気づく。
よく出てくる通学路と、化石のような河童を見つけたのが、この川辺。非常にリアルに描かれています。
犬の散歩の途中で、同級生の女の子と出会うベンチ。これも、そのまんま。
自宅方面へ続く坂道。これも、映画のままです。
東京にしては、まだ自然の残る東久留米。でも、河童の目からみれば、全然自然じゃないと言います。ここは、自分たちの住んでいた川や沼を埋めたてて作られた街。
少年が、「ここら辺なら昔とたいして変わらないんじゃない」と河童を連れて行ったのが、落合川の上流、南沢にある「沢頭湧水」。こんこんと水が湧き出し、環境省が選定した「平成の名水百選」に、東京都で唯一選ばれている場所です。
河童にも少しはマシと言われた場所。こういうところが、身近にあるというのは幸せな事なんでしょうね。
秋の中に、一瞬だけ幻のように現れた夏の光景。そんな中で、河童のクゥとすごした夏休みを、アルバムのページをめくるように、自転車で追いかけてみたのでした。