衝撃的なニュースが飛び込んで来ました。
『あの「やぐら」が閉店してしまった!』
…と言っても、江古田住民以外には、チンプンカンプンの話しかもしれません。
しかし、住民にとっては一大事。
江古田の名物店四天王と言われた、その一角が崩れてしまった事は、
AKBの総選挙で、板野友美さんが神7落ちしたぐらいの衝撃なのです。
「やぐら」というのは、江古田名物の24時間営業だった、おにぎり屋さん。
江古田住民で、ここのおにぎりを食べた事がなければ、
「もぐり」と言われても仕方のない名物店でした。
ジイジとバアバの2人でやっていて、夜中であろうと早朝であろうと、
窓口から「すいません」と声をかければ「ハーイ」と声がして、
中からどちらかが顔を見せたのです。
2人の24時間のローテーションがどうなっているか、
それは江古田7不思議の一つでもありました。
僕が好きだったのは、ツナそぼろと、すじこ。
おにぎりでツナというと、マヨネーズ和えが多い中、
こちらは、醤油煮のツナが入っていて、あっさりした和風。
でも、醤油味が御飯に染みてるから、コレが旨い!
そして、すじこは、すじこというけれど、ほぼイクラの大粒。
ミニいくら丼を握ってしまったのではないかというぐらい、
ぎっしり入っていて、イクラの軍艦巻きより、贅沢な物でした。
そんな「やぐら」のおにぎりを、
江古田の酔っぱらい達は、シメの一杯ならぬ、シメのやぐらとして、
帰宅前に買い、食べながら帰り道をフラフラと帰るのですが、
それが、通っぽくて、僕も何度かやった事があります。
人気のない深夜に、この前にアゲアゲ盛り盛りの髪の毛をした
派手な一団が集まっている事も、よくありました。
それは、仕事を終えたキャバ嬢達。
彼女らは江古田のお店で働いているけれど、近くに住んでいる訳ではなく、
結構、遠くから働きに来ているために、
帰りはお店の「送り」という車で送迎されて、帰宅します。
その前に寄るのが「やぐら」。
送りのワンボックスの後部座席に乗り込み、
その中で、おにぎりを食べるのが、
夜の顔から、本来の自分に戻るための儀式だったのかもしれません。
お金を頂くキャバクラのお客さんにだけでなく、
お金を払う側の、やぐらのジージとバーバにも、
「どうもありがとうね」と、笑顔を振りまいているのが印象的でした。
小さなドラマの渦巻く「やぐら」が閉店。
さみしいなあ。
さてさて、そんな「やぐら」の隣りにあるのが、
江古田四天王あらため、江古田BIG3の1つとなった「江古田コンパ」です。
コンパというのは、合コンのコンパじゃなくて、
パブとかスナックのようなお店の業態の一つ。
昭和の時代には、いろんな所にあった○○コンパという名前ですが、
今や全国でも数えるほどになったそうです。
これが流行ったのは、キャバレーとかと同じ時代でしょうかね?
カクテルなどを安く提供する事によって女性客が集まり、
それを目当てとした男性客が集まるという物です。
つまり、今の飲食のレディースデーと、ちょっと仕掛けが似ています。
こちらもその流れは受け継いでいて、女性のみ10時までカクテル半額。
お店は、日大芸術学部の体育会系部活のたまり場。
体育会系と言っても、運動だけじゃなく、
映画やミュージカルなど、上下関係に厳しい文化部も入ります。
お店は、チャージが300円で、500円のおつまみを一品頼むのが決まり。
こう聞くと、ノーチャージが多い中、高いと思うかも知れませんが、
日芸の体育会系は、社会人となったOB達が、
自分たちのサークルの為にボトルを入れて置いてくれる事が多く、
800円さえ払えば、あとはボトルがなくなるまで飲み放題って訳です。
それは、厳しい上下関係についてきたご褒美。
そして800円は、楽してタダ飲みするんじゃなくて、
そのぐらいは自分で作る努力しなさいという、ママの愛の鞭。
今や、学校でも会社でも、必要以上にお付き合いしない主義が主流で、
それは自由だと思うけど、
窮地に立たされた時に、普段のこういうつながりが重要で、ありがたい事、
はじめてわかるんじゃないかな。
この懐かしい場所を求めて、その後、女子アナやタレントになった人達が訪れる事も。
あの映画「海猿」の監督の羽住さんは、
学生時代ここでバーテンのバイトをしていた事でも知られています。
そして、ここで飲んだあと、学生グループは店の前にしばらく溜まっているのだけど、
階段の下で酔いつぶれているヤツもいれば、介抱してるヤツもいる。
そんな中、少しずつ右にスライドして、
やぐらでおにぎり食べちゃってるヤツもいたなあ。
江古田四天王あらため、江古田BIG3の1つ、居酒屋の「お志ど里」。
海の家とか旅館の宴会場のような、だだっぴろい座敷席があり、
昼間は定食屋として機能もするし、居酒屋タイムでも定食が食べられます。
それとは逆で、もちろん昼でも飲む事が出来ます。
昼から飲んでるのを見て、軽蔑の眼差しで見る人もいるのだけど、
夜勤明けの人が至福の一杯を楽しんでたり、
僕らみたいな不規則な生活な人間が、徹夜の原稿をしあげて、
自分にご褒美って、一杯やってる場合もある訳ですよ。
あなたには、昼間から酒飲んで呑気に見える人も、
もしかしたら、朝まで頑張ってた人かもしれません。
自分と生活サイクルの違う人がいても、そこは一つ大きな心で!
…とは言っても、江古田の飲んべえにとっては、
江古田無限ループの1つに組み込まれているのも事実。
夜、普通に居酒屋で飲んで、
0時ぐらいになったら、5時ぐらいまでやってるBARに移動して、
そこが終わったら、江古田の墓場と言われる
昼間でやってるママンというスナックへ。
で、昼になったら、こちらのお志ど里へ。
と、24時間飲み続けの無限ループが完成する訳です。
実は僕もやった事あったりしますが…。
その24時間無限ループのどこかに、
あの24時間営業のやぐらも組み込まれていたりしたのでした。
そして最後に登場したのが、江古田四天王あらため、江古田BIG3の1つ
「パーラー・トキ」。
現存する、江古田で一番古い喫茶店です。
トキというのは、鳥の朱鷺ではなく、時間の時。
斜め向かいにある実家の長野時計店から来ています。
やぐら閉店の話しを聞いてから、久しぶりに行ってみたくなりました。
ママチャリで。
いかにも「ザ・昭和」という喫茶メニューが名物のこのお店。
以前来た時はナポリタンを食べたので、
今回は、こちらも喫茶店などで最近ではあまり見かけなくなったメニュー
ミートソース、580円を。
ここは知る人ぞ知る、デカ盛りの店。
普通盛りで、他のお店の大盛りぐらい。
メニューも「ちょっと少なめが他店の普通盛りと同じです」と書かれています。
超大盛りにいたっては、本来、スパゲティーを運ぶハズのトレイぐらいの
大きな銀の皿に盛られて出てくるので、
よく学生達が大食い自慢や、罰ゲームで注文する事もありました。
夜の体育会系が江古田コンパなら、昼の体育会系は、トキ。
最近は草食系が多いから、めっきり少なくなりましたけどね。
セットにすると、ドリンクは+100円。
帰るまで10回ぐらい
「今日はありがとうございます」
と声をかけてくれるオバちゃんが、
各テーブルに、サービスでアイクリームを持って来てくれます。
おまけと言えば、やぐらでは5円多くおつりを返してくれたなあ。
不思議そうな顔をすると、「これ、おまじない」って。
知らないで「おつり多いんですけど」っていうヤツは初心者でした。
特別、グルメでもないし、でも大盛りってだけでもない。
不思議な魅力にひきつけられて、この店を訪れる人達がいます。
近くのテーブルでは「最近、いい歌詞がかけなくてさ」と、女のコが。
この後、近所のライブハウスに出るコ達じゃないのかな?
ミュージシャンだって、誰でも下積みがあり、
貧乏にあえぎながら夢を見てる時があります。
最近では超売れっ子のナオト・インティライミだって、
うちの番組でDJやってる頃は、ほとんど売れてなかったもんね。
下積みで、カネが無い時は、たいがいの人が量があるだけで嬉しかったり、
サービスにラッキーと本気で喜んだり。
でも、大人になると、そんなお店には出入りしなくなり、
いつしか小さな喜びも感じなくなっていきます。
今も江古田の喫茶店の片隅には、
まだ若かった頃の自分達に似た、お客さんがいたりします。
店の片隅では、ミュージシャンが歌詞書いてたり、
漫画家がネーム切ってたり、ライターが原稿書いてたり。
しかも、その多くがこれからの人で、夢を見ているのが江古田。
街全体が、大人になれないトキワ荘みたいな感じなのですよ。
よく言えば、ネバーランド。
悪く言えば、学生気分が抜けない街。
個性的なお店があって、それぞれに集まるお客さんの小さなドラマがあって
それが、見えない所で微妙に連鎖している街。
そんな江古田を支える一角が消え、寂しい気分。
だからこそ、残っているBIG3には、
ぜひとも頑張って頂きたいと思うのであります。
■パーラー・トキ
■東京都練馬区旭丘1-77-2
■営業:11:30〜21:00
■定休:火曜
■場所はこのへん