宿場町であった事から蔵の多い府中で、
蔵そのものをカフェにしてしまったのが、中久本店・喫茶室・蔵です。
雑誌などで渋いカフェ特集をすると、蔵のカフェとして、
北千住の「蔵」と共に取り上げられる事が多いお店です。
あちらは質屋の蔵を改装したカフェですが、
こちらは造り酒屋の蔵を改装したもの。
創業1860年、7代続く老舗造り酒屋で、メインは酒屋さん。
府中の地酒「国府鶴」を作っている酒蔵なのですが、
お酒の方は、現在、別の場所に蔵を移して作っているそうです。
交差点の角にあるお店なのですが、
府中街道の方に面しているのが、酒屋さんの中久本店。
旧甲州街道の方に面しているのが、こちらの喫茶室・蔵。
表に看板が出ています。
「辻の応接間・蔵」
はい!いいですか〜!(金八先生風)
辻(つじ)とは、2つの道路が交差した十字路の事です。
道を表す「辶(しんにょう)」と、
その道が交差した姿を現す十を組み合わせて作ったものです。
はい!いいですか〜!ここからが大切!
この漢字は、国字と言って中国ではなく日本で作られた和製漢字なんです。
和製英語なんて言葉がありますが、
日本では遠い昔から、漢字さえも自分達で作ってしまっていたんですね。
峠や畑も日本で作られた漢字です。
覚えておきなさい、このバカチンが〜!
お店の中は重厚な木造の風格が。
それに対して、お店の方は親しみやすく、
メニューを渡すときに
「ちょうどケーキが焼き上がったところなんですよ」
と、声をかけてくれたり、写真を撮っていいかお伺いをたてたら
「どうぞ!よかったら酒屋の方も覗いてみてくださいね」と。
チーズケーキは350円。
カプチーノは500円。
やさしい味のケーキを味わいながら、
蔵の中に流れるゆっくりな時間にひたっていました。
味わいのある喫茶店では、小さなドラマに遭遇する事が多いのですが、
この日もそんな事がありました。
「お久しぶりです」
とお店の方が声をかけると
「いやあ無罪放免で無事出所出来ましたよ」
と、笑いながら入ってきた年配の御夫婦。
一瞬、ドキっとする言葉ですが、府中刑務所の事ではなく、
検査入院をしていて、異常なしという事で退院なされた様子でした。
その後、近況をいろいろ話されていたのですが、
話の内容からすると、昔、音楽の先生をしていた方で、
現在は、ご夫婦で旅をしたりしながら悠々自適の生活をしているようでした。
そして、最近旅をした時の話に。
「千葉の御宿に旅をしたら、童謡の月の沙漠の像があったんだよ。
そしたらさ、昔「月の沙漠」で合唱コンクールで優勝した事を思い出して。
生徒達皆に『そういえばコンクールで優勝したね』っていう手紙出したんだ。
もうほら、手紙出すのが趣味だから、送るだけで満足。
だから返事はいらないって言うんだけど、返事くれるんだよね〜。
小包を送ってきたのがいたから、見てみたら、
昔歌った合唱のテープが入ってたんだよ。よくあったねー。嬉しかったよ。」
メールが主流になり、年賀状でさえ出さなくなった現代。
なんだかほっこりするようなエピソードでした。
日本郵政も、こんな小さなドラマ、CMにすればいいのに。
そんなドラマのある喫茶店。いいなあ。
話を聞きながら、脳内で、その後のストーリーを妄想していたら、
なぜか、JR東海のXmas EXPRESSのCMコピーが頭に浮かびました。
「あなたが会いたい人も、きっとあなたに会いたい」
そういえば、もうすぐクリスマスだねえ。
■中久本店・喫茶室・蔵
■東京都府中市宮西町4-2-1
■営業:10:30~18:00
■定休日:日曜
■場所はこのへん