イル・ポスティーノ

1950年代。ナポリの沖の小島に、チリの国民的詩人ブロ・ネルーダが亡命してきた。
島の貧しい若者マリオは、
世界中からこの詩人へ送られてくる手紙の配達人を引き受ける。
ネルーダとのささやかな交流の中で、次第に言葉の美しさに魅せられていくマリオ。
島のバールで働く美しい娘に恋心を抱く彼は、ネルーダの励ましを受け、
愛の言葉を彼女に送り続けた…。

岬の先の一軒家に住む詩人。
その家に向かう、美しい海の見える道を、郵便屋さんは自転車で配達に向かいます。
自転車は、あくまでも仕事の道具。
しかし、田舎を走る自転車の速度が、
この映画を作る上での肝となっているのです。

詩人に憧れる郵便配達人は、どうやったら詩人になれるのかを尋ねます。
その答えは
「入り江に向かいゆっくり岸を歩きなさい」

郵便屋さんは、その教えを守り、ゆっくりと海沿いを歩きます。
そして、波がひいては返す様子、空の様子、入り江の自然、
様々な美しい瞬間、一場面に気づき、それを言葉にしてみるのです。

その詩人の教え同様、ゆっくりと走る自転車を追う映画のカメラは、
イタリアの田舎町の美しさを、映しだして行きます。

途中、詩人に比喩、隠喩の方法を教えてもらうシーンがあるのですが、
最近「母さん、マジ、感謝」みたいな直接表現の歌詞ばかりを多く耳にしていたので、
そこに込められた、間接的な美しい言葉の表現に
心洗われるような感動がありました。

電車や車から見える風景。
スピードが上がればあがるほど、遠くの風景しか見えなくなってきます。
きっとその移り変わりに、頭の中の情報処理能力が追いつかなくなってくるのでしょう。

でも自転車なら大丈夫。
ミュージシャンの皆様、自転車で走ってみると、
作詞の際に頭に浮かぶ光景が、少し変わってくるかもしれませんよ。

英国アカデミー外国語映画賞
日本アカデミー外国作品賞

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震災について

東日本大地震の犠牲者のご冥福を心からお祈り申し上げます。
そして避難生活を送られている被災者の方達には
一日も早く普通の生活が戻るよう祈っています。

長文になりますが、今回の震災で学んだ事を振り返ってみたいと思います。

実はうちの実家も岩手県の宮古市なのですが、
幸いな事に、全員無事である事の確認が取れました。
災害から5日目のこと。

今回は、故郷が被災地となり、自身は帰宅難民となり、
災害を直接体験する事で、数多く学ぶ事がありました。
それをお伝えするべく、まとめてみたいと思います。

実に数多くの教訓があるのですが、これをご覧の東京近郊にお住まいの方は、
帰宅難民等に関してはそれぞれが体験なさったでしょうから割愛します。
ここでは、遠く離れた故郷が被災した時、
自分には何が出来るのか、何に注意したらいいのか書いてみたいと思います。

■TVの情報を全てと思わない

TVは被害の大きかった所、一部の情報しか繰り返して流しません。
実家の方は、堤防を越えて水があふれ出し、漁船が町中まで流される様子を映し
「宮古壊滅」と何度も報道されました。
その為、知人達にも心配をかけました。

ただ、実際には宮古市は、市町村合併で県内でも一番広く
東京23区の面積621平方kmに対し、
宮古市の面積は1260平方kmと、約2倍の広さを誇る市なのです。
なので、被害の具合は地域ごとによって違います。

TVは一番迫力のある映像を流したがる傾向がありますが、
肉親の安否を心配する側としては、それを鵜呑みにしない方がいいと思いました。

■ネット環境を整えておく

TVは2日ぐらいまでは、迫力映像特集みたいになって、
同じ情報しか流さないので、現地の情報収集としてはほとんど役立ちません。
肉親として現地の情報で一番知りたいのは無事だった場所。
しかし、それはTVでは一番後回しとなり報道はされません。

そこで特に役だったのは、ツイッター、mixi、facebookの3つ。

・ツイッター
それぞれが手にした情報を呟いているので、地名で検索
さらに市の中の町名に絞って検索する事で、欲しい情報を探す事が出来ます。
肉親の安否が直接わからないにしても、近所の被災状況がわかるので、
安否の想像がしやすくなります。

・mixi
もともと市町村コミュニティーというのが作られているのですが、
そこには地区ごとに情報がまとめられていきます。
そこの書き込み者達と協力して、さらに情報の収集が出来ます。

宮古市の場合、無事だった人が車や自転車を使って避難所をまわり、
被災者名簿は携帯写真で撮り、電波の通じる所まで行ってネットにUP。
それを、東京・大阪在住の出身者がPCで見ながらテキスト化。
文字に起こして名前の一覧を作りました。
こうすることで、検索もしやすくなりますし、
普通の携帯電話では、写真を拡大出来ず名簿写真から名前を確認する事が困難だからです。
今回、PC&スマートフォンが使えない人は、かなり歯がゆい思いをしたハズです。

のちにこの名簿は地元放送局の安否情報にも使われました。

・Facebook
これは友達関係への報告、メーリングリスト代わりとして役立ちました。
東京でも通信環境が悪くなり、メールもいちいち全員に返信する事が出来ません。
そこで、通信可能な時間にfacebookに書き込む事によって、
一斉送信と同じ役割を果たしてくれます。
さらにiphoneアプリなどだとプッシュ機能によって、
書き込みがあった事をお知らせしてくれるので、メールに近い役割を果たしてくれます。

■google person finderを活用

災害伝言ダイヤル171などもありますが、
ものすごく役だったのは、google person finder。

http://japan.person-finder.appspot.com/

自分の親類の情報を登録すると、それについて知っている人達が書き込んでくれるというもの。
うちの場合はコレで、まず最初の生存情報がもたらされました。
家族親類とも連絡が取れなかったのですが、
実家の向かいの家の人と取れた人がいて、その人が近所の安否を聞き、
このgoogle person finderに書き込んでくれました。

のちに、まとめた避難所名簿をgoogleに送ると、
googleが代行して情報打ち込みをしてくれたので、情報が集まりやすかったです。

このあたりのネット環境が肉親捜しに特に役に立ったツールです。

自分の置かれた立場や状態を最優先させる

そして故郷から遠く離れた自分の心持ちとして注意したい事。

日本人の良い所として一致団結しやすい所があげられるのですが、
悪い所として、一律同じと考えたり強制しやすい所もあげられます。
これは、紙一重なのです。

被災者、被災地域に関係者がいる人、被災をまぬがれた人、
これらは、全て立場や環境が違います。
なので考え方に温度差が生まれます。
でも、それは当たり前の事。

一番つらいのはもちろん被災者。

そして被災地域出身者は、安否情報を確かめる為、
一日中、誰とも話さずにテレビやネットにかじりつき、
不安を胸につのらせて、孤独感を増していきます。

なので自分は、近所の被災地域出身者を集めて、飲み会をやりました。
目的は、
安否を確認するための手段、方法などの情報交換。
そして、胸中に溜まった不安を吐き出させ、精神的な安定を取り戻す為です。

事情も知らず「飲み会=不謹慎」「飲み会は自粛すべき」という人もいます。
実際に言われたりしました。
しかし、自粛というのは、飲む元気や余裕がある人が控える事だと思います。
飲み会と言ったって1〜2杯。実際に飲んだって酔えません。
しかも酔うのが目的でなく、心配で凝り固まった心を少しほぐす事が目的。

無事でいる人達の出来る事は、元気でいる事、冷静でいる事。
それをKEEPする事で、また安否確認や支援が出来るのです。
見た目は平然を保とうとしているので、
それほど心的ストレスを溜め込んでいる事は理解されにくいですが、
自分の体調、精神状態が一番大事です。
気にせず、自分の事を最優先させてください。

■今回の震災で一番怖かったのは、一律こうすべしという論調でした。

心を一つにして難局に立ち向かわなければならない震災ですが、
それぞれの置かれている立場で、温度差は違います。
そこに一律こうすべしと押しつけようとする人が多いのに驚きました。

・震災はこう報道すべしと一律同じになっているマスコミ

速報、災害の大きかった場所、無事だった場所、子供達に安心を与える局、
それぞれが役割分担する事は出来なかったのか?
とにかく選択肢が欲しいと思いました。
バラエティーの解禁の時期も問題になりましたが、選択肢があればいいのです。
報道を続ける局もあれば、平常に戻る局もあってよし
笑顔になれる人からなればいいと思いました。

実際に被害関係者達が見たくないのはバラエティーより、
忌まわしい津波の恐怖映像なんじゃないでしょうか?
少なくとも自分はそうです。

・良かれがトラブル、揉めごとを生む

みんなが「良かれ」と思っています。
こんな事態に、はなから、悪ふざけしてやろうという人はいないと思います。
しかし、それぞれに対しての、今一番大切な事、欲しい者は違うのに、
みんなが「良かれ」を押しつけて、自分が正しいと譲らず、揉めごとを生みます。

TVではCMがカットになりACの啓蒙広告が多く流れましたが、
TVにはなく、ラジオで流れたACのCMに
「親切とお節介は紙一重。同じものでも、受け取る人によってどちらになるか違う」
というものがありました。
同様に、その人にとって正しい事も、他の人にとっては正しくない場合もあります。

でも、答えが違う場合でも、出来れば反論ではなく、スルーしてください。
正義感から揉めごとを作らないでください。
そして自分にとってベストな事を、自分で選択してください。

思いやる心は大事だけど、それを押しつけてはいけない。
まずは、それぞれの「ジブンガデキルコト」をやればいい。

「災害を乗り越える事」という目標は一つですが、
方法は一つじゃありません。
それぞれのルート、ペースで山頂を目指せばいいのだと強く感じました。

まだまだ災害と復興は続きますが、
現地からも前を向いて歩き始めたという報告が入ってきています。

ここで、一度、今回の震災について振り返った所で、
こちらも、徐々に前を向いて、歩いて行きたいと思います。
日常に戻れる事、少しずつしていきたいと思うのです。

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