もしかして、これからエンタメでは「憑依系」という言葉が重要なキーワードの一つになるんじゃないだろうか…と、ふと思いました。
先日、「情熱大陸」で、全裸監督の主演女優「森田望智」さんの密着をやっていました。山田孝之さんも言っていたように黒木香という役が降りてきて、ずーっと凄い熱量が続く演技。
演技のワークショップで、「浮気を問い詰める女」という設定を渡されると、すぐに悔しさで手が震え出し、涙を流しながら叫び、男を問い詰めました。OKがかかっても、すぐに役が抜けず、しばらく怒りを頂いたまま。完全に役が憑依していました。
映画「ジョーカー」でもホアキン・フェニックスの不運の主人公が憑依した狂気の演技が話題になりました。
普段見ているテレビが、規制でがんじがらめにされて、お約束という暗黙のルールで、TVショーごっこのような進行しかしない今、不謹慎でも悪ふざけでもない、予想を遙かに超えた本気の演技が、人の心に突き刺さっているような気がします。
この日、Zepp Tokyoで行われた、鈴木愛理さんのライブもソレでした。
今、Official髭男dismが楽曲提供・演奏で参加した「Break it down」が話題になっていていますが、通常のPVよりも、Dance Shot Ver.の方が、再生数が伸びています。
ハロプロ時代から、歌って踊れるアイドルの最高峰だった訳ですが、脱アイドルしてからの方が、一般の方々にそのスキルが知られるようになり、女性が憧れるアーティストの代表格に。この日もライブ会場は、半分が女性客。アイドル出身で、それって異例中の異例な事です。
ただ、この「鈴木愛理 LIVE PARTY No Live, No Life?」という東名阪のツアーでは、あえてその得意のダンスを封印。歌の力だけで、どれだけ人々の心を打つことが出来るのかという挑戦を行いました。
そこで鈴木愛理さんは、歌の主人公に憑依しました。元々歌は上手いのですが、今回はメロディーを正確にトレースするより、主人公の感情をむき出しにするような歌い方というアプローチをして来ました。うちの番組にゲストに来た時に教えてくれたのですが、ドラマに出演したのがヒントになり、役が降りてくるコツのような物のをつかんだのだそうです。
特に凄かったのは、wacci の「別の人の彼女になったよ」のカバー。
これは、いわゆる歌い手というネットで活躍する人達や、アマチュアのミュージシャンにも多数カバーされている曲なんですが、鈴木愛理さんのは凄かった。
相手を懐かしむ気持ちから、徐々に感情がたかぶり、最後は泣き叫ぶように歌う。歌い終わって暗転になったけど、このまま続けたら壊れてしまうんじゃないかというぐらい、役が憑依していました。
歌うまい!っていうより、ちょっと怖かったという感じも。
カバーソングの女王と呼ばれる、歌の上手い人達は沢山いますが、なぜか、あんなに上手いのに心が揺さぶられる事が、あまりありません。
鈴木愛理さんのはカバーっていうより、映像のない演劇を見ているような感じ。スクリーンには歌詞しか映っていないのですが、それぞれの頭の中に、ドラマが投影されている感じだったのです。実際に、歌が終わったら周りの女性客達が皆、泣いていました。
勢いに乗っている時は、いろんな勢いが引き寄せられ束になるようで、女性芸人のトップを決めるWという大会で優勝した「3時のヒロイン」という女性芸人トリオ、そのメンバーの福田麻貴さんともコラボする事に。ウケメンという番組の中で「あいみょん」のパロディー「まいみょん」というコントを演じるのですが、その中でデュエットしたら話題になり、このライブでもコラボする事に。O.Aは1月3日だそうです。
今年一番ブレイクしたOfficial髭男dismと、売れる前に出会い楽曲提供に。カバー曲「別の人の彼女になったよ」は、鈴木愛理さんが歌った事で、女性のキーでも歌えるという事でカラオケで上位にランキングに。そして、今一番勢いのある女性芸人さんとのコラボ。勢いって、こういう風にいろんな物がくっつきながら転がっていって、さらに加速するんだなあ…と思いました。
なんか新しい歌い方が世に登場する前夜のような、のちのち「あの時」と語り継がれそうな、そんなライブでした。