キアズマ珈琲(雑司ヶ谷)

側道

中心の気圧は960ヘクトパスカル、最大瞬間風速は55メートル。
前夜、父島の西まで近づいている台風12号のニュースを聞いて、
週末の遠出は、あきらめていました。

ところが一夜明ければ台風一過。
素晴らしい青空が広がっています。

それでもやはり、台風の影響で風はやや強いので、
クロスでの遠出ではなく、ママチャリでの近場探検に切り替えました。

西武線の江古田から千川通りを真っ直ぐ進み、目白通りに合流。
そのまま真っ直ぐ進んで目白駅を通過し、
さらに明治通りを越えてすぐ左折すると、もうそこは雑司ヶ谷。
ほぼ、1本道で来る事が出来ます。
所要時間は、ママチャリでも15分前後。

都電

少しややこしいのは、地下鉄副都心線では「雑司ヶ谷」ですが、
都電荒川線では「鬼子母神前」。
荒川線の「都電雑司ヶ谷駅」は、もう少し池袋寄りにあります。

鬼子母神参道

駅から見えるケヤキ並木。
「鬼子母神」の看板が無かったとしても、
おそらくこちらの方向だろうという事は推測出来ました。
参道と並木はセットであると、記憶に刷り込まれているからです。
勘という名の体の中のナビが、自然とこちらの方向に足を誘導します。

歌川広重

江戸時代から、このケヤキ並木は雑司ヶ谷のランドマークだったらしく、
歌川広重の浮世絵にも描かれています。
多くの参拝客が訪れ、参道には茶屋が建ち並び、賑わっていたようです。

ケヤキ並木

現在の参道はというと、少しひっそりとした様子。
参拝客目当てのお店も消え、静かな住宅地となっています。
そんな中にひっそりと、古民家をリフォームしたカフェがあったので入ってみる事に。
写真の右手前のお店です。

キアズマ珈琲

お店の名前はキアズマ珈琲。
この長屋のような物件を改装した、古民家カフェです。

以前は中華料理屋さんだった物件なのですが、
古い建物と雰囲気を生かすために、アルミサッシだった扉をあえて木製に戻すなど、
空気感とまとめる事によって、いい味が出ています。

右から二番目の引き戸だけデザインが違うのがわかりますでしょうか?
実はコレ網戸で、涼しくなってきたのでクーラーを止め、
自然の風が入るようになっているのです。

店内

店内はアンティーク風だけではなく、古さと新しさが融合。
カウンターの中の壁は緑に塗られ、
黒板のようにチョークでメッセージを書けるようになっています。

椅子

古民具のような椅子達は、よく見ると違うデザイン。
しかし風合いが揃っているので、統一感があり違和感がありません。

この少し違う感じがいいんでしょうね。
きっちりとした統一感は、悪く転べば無機質な感じになりがちですが、
このデコボコな感じが、逆に人間的な温かみを生んでいるような気がします。

この物件は、変わった物件でおなじみの「東京R不動産」が扱ってる場所なんですが、
お店のリフォームの様子が、サイトに掲載されているので、
自分でリノベーションしてカフェをオープンしたいと思っている人など、
参考にしてみてはいかがでしょうか?

サンドイッチ

ビーフパストラミサンドは、500円。
アイスコーヒーは450円ですが、セットは50円引きで、合計900円。

1階は禁煙席なので、
トーストされたばかりのパンの香り、
カウンターの中で珈琲豆を挽く香り、
食欲をそそりながら、なぜか気持ちを穏やかにする香りが、鼻腔をくすぐります。

周りのお客さんの話し声も、適度に控えめで、
BGMのJAZZも、あくまでも裏方に徹し、主張しません。
そしてお店のデザイン。
全てが適度に控えめでバランスが良く、とても居心地がいいのです。

そういう雰囲気が人を呼ぶのでしょうか?
土曜日の2時過ぎでしたが、この後、すぐに満席になりました。

■キアズマ珈琲
■東京都豊島区雑司が谷3-19-5
■営業:10:00~19:00
■定休日:第1・3水曜日
場所はこのへん

雑司ヶ谷案内処

キアズマ珈琲の隣りにあるのは、雑司ヶ谷案内処。

観光マップ

この付近を観光マップを持って散策している人達が多いのですが、
こちらで無料配布されている物だったようです。

様々なチラシやフリーペーパーが置かれ、
この参道のお店の事だけでなく、雑司ヶ谷全体の情報が手に入る他、
近隣のお店の商品を展示するBOXなどもあり、
合同ショーケース的な役割も持っている場所です。

ともすれば、各お店、各商店街はバラバラに行動、活動しがちですが、
ここはそういう「点」をつなぐ役割をしていて、
散策する側としても、一度に情報が入り、ありがたい存在です。

お店という「点」や商店街という「線」ではなく、
雑司ヶ谷という「面」で、街全体を盛り上げていこうという事なんでしょうね。

手塚治虫イラスト

この案内所の裏手に、並木ハウスというアパートがあるのですが、
かつて、あの手塚治虫さんが住み、マンガを書いていた場所だそうです。

同じ豊島区の椎名町に、あの「トキワ荘」があった時代。

遊びに来たはずの藤子不二雄さんが、マンガを手伝わされたり、
上京して間もない石ノ森章太郎さんや赤塚不二夫さんなどが訪れたり、
当時の思い出を描いた手塚さんのイラストが、この案内所の二階に飾られています。

並木ハウス

という訳で、裏手に回ってみました。
今も、並木ハウスが存在しています。
現在も人が住んでいるので、中を見ることは出来ませんが、
あの「トキワ荘」の方はすでに取り壊されている事を考えれば、外観だけでも貴重。

同様に並木ハウス詣でしている、マンガファンと思われる方々がいました。

法明寺

雑司ヶ谷に来たら、やはり鬼子母神詣でをしなければ!
ケヤキ通りを抜けた所を左に曲がると、すぐにありました。
法明寺鬼子母神堂。

ちなみに、鬼子母神と書いて「きしもじん」と読みます。

この付近、やたらオシャレで綺麗な女性が歩いているので、
谷中のように人気沸騰中なのかなと思ったら、
この右手を行った所にある、東京音楽大学の学生さんのようです。

鬼子母神堂

鬼子母神はインドで訶梨帝母(カリテイモ)とよばれ、
夜叉神の娘で性質は暴虐この上なく、
近隣の幼児をとって食べるので、人々から恐れられていました。

お釈迦様が、その過ちから救う為に、
訶梨帝母の子を隠してしまったのですが、
そこではじめて今までの過ちを悟り、
その後安産・子育の神となることを誓ったとされています。

看板

鬼子母神像は、鬼ではなく、幼児を抱いた菩薩の姿をしているので、
漢字も鬼ではなく、角(つの)のつかない鬼の字が使われています。

いちょう

境内には、高さ30メートル、周囲8メートルという大銀杏があり、
これは、麻布善福寺につぐ都内で2番目に大きな木で、
都の指定天然記念物にもなっています。

駄菓子屋

駄菓子屋さんの「上川口屋」もあるのですが、
何と、創業は1781年で、現在十三代目。
代々女性が店を継ぐのが決まりなんだそうです。

お団子屋1

お団子屋さん隣のベンチでは、小さなドラマがありました。

女子高生2人と、男子一人が仲良く境内に入ってきました。
歩いているときは、まだ3人とも同じ距離感で、
恋には発展してなさそうな感じだったのですが、
ベンチに座る時に、男のコは真ん中ではなく、端っこに。

最初は、3人とも等間隔で座ったのですが、
次第に、男のコと隣の女の子が盛り上がり、寄り添うように。
そして、女の子と女の子の間に、少し距離が出来てしまったのでした。

たった15秒から20秒ぐらいの間の出来事なんだけど、
構えていたカメラの液晶モニターの中で、
そんな小さなドラマが繰り広げられたのでした。

雑司ヶ谷霊園

この鬼子母神から自転車で5分ぐらいの所に、雑司ヶ谷霊園があります。

地図

有名人のお墓参りをする人を「墓マイラー」と呼ぶそうなのですが、
雑司ヶ谷案内処でもらったパンフレットにも、有名人のお墓マップが。
確かに、この地図を持って歩いている人と、何人もすれ違いました。

この地図は、お墓の管理事務所でも無料で配っているので、
こうして訪れる人、多いんでしょうね。

夏目漱石

こちらは、文豪・夏目漱石のお墓。
正面からだとわかりにくいですが、椅子のような形をしています。
これは奥様が、日本の墓でも西洋の墓でもない形にしたいという事で、
安楽椅子をイメージしたデザインなんだとか。
変わったデザインのお墓の走りですね。

この他、永井荷風、小泉八雲、金田一京助、サトウハチロー、
竹久夢二、ジョン万次郎などのお墓もありました。

文豪達のお墓をめぐりながら、手を合わせ、
少し文才を分けて頂けないかと、お願いしてみたりしたのでした。

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ワーズワース(東久留米)

新青梅街道

太陽がちょうどてっぺんに来た頃、新青梅街道を走ると、少し夏の香りがしました。

ここのところ秋めいて薄くたなびいてた雲も、丸さを取り戻そうとし、公園の付近で耳を澄ませば、秋の虫に混じってまだ蝉も鳴いていました。日差しが出れば、じんわりと汗ばみます。

鉄塔

もし、鉄塔に季語があるとしたら、夏だと思う。

鉄塔は、夏休みに子供達がする小さな冒険のシンボルマークのような気がします。トムソーヤの小屋のように、日本の子供達の冒険には鉄塔がつきもの。映画やアニメ、マンガなど、夏休みをテーマにしたものには、かなりの確率で鉄塔が出てきます。

どこまで続いているんだろう…。そんな冒険心を、子供の心の中に芽生えさせる為のスイッチのようです。

ワーズワース

冒険の前に腹ごしらえ。これはきっと世界共通のハズ。

新青梅街道を走っていると山崎パンの工場があり、パンのあのいい香りが漂ってきます。当然お腹も空くわけで…山崎パンの角を曲がってしばらく行った所ある、一軒家のカフェに入ることにしました。

お店の名はワーズワース。イギリスの詩人の名前がついた、このお店、なんとなくイングリッシュガーデンのような佇まいではないですか。

そういえば、かつてフジテレビで「ワーズワースの冒険」という番組がありましたね。冒険というキーワードが繋がっていきます。

店内

天井は高く、広々とした空間。

都心のカフェでは、一休みしようと思って入ったのに、まわりのせせこましさに、逆にイラっとしてしまう事もあるけれど、ここは正真正銘、のんびりする為の空間。

まだ冒険する前なのに、まったりしてしまいます。

ホットサンド

さてさて、ホットサンドで腹ごしらえ。ホットサンドは通常、食パン2枚に具材を挟んで、半分に切られて出てきます。お腹が空いていたので、この日は、2倍盛りの具材2種類を選びました。
つまり、3角の物が4つ。700円。
アイスコーヒー込みで、1230円。
通常のホットサンドならセットにしても、1000円以下です。

具材の大きなサンドイッチは、手作り感満載で、食べ応えあり。パンだと思って油断していたのですが、思っていたよりボリュームもありました。少し食べ過ぎましたね。でも、お腹が満たされると穏やかな気分に。本当に冒険の旅に出られるのでしょうか?

■ワーズワース
■東京都東久留米市柳窪1-7-29
■営業:10:00~19:00
■定休日:月曜
場所はこのへん

しんやま親水広場

お店を出て冒険を始めれば、5分もしないうちに夏休みの風景を発見!どこから、どう見ても夏の光景でしょ。川面を鴨がのんびりと泳いでいます。

ここは市内を流れる黒目川の上流。あえてコンクリートの土手を外して里山の風景を作り出した親水公園。当初は人の手で作られた自然もどきだったのですが、そこに自然の力が加わり、今や自然そのもの。

今回、東久留米を選んだのは、実はこの黒目川が大きく関係しています。

この夏公開され話題になった、原恵一監督のアニメ映画「カラフル」。

クレヨンしんちゃんの『嵐を呼ぶ モーレツ!オトナ帝国の逆襲』の監督です。さらに『嵐を呼ぶ アッパレ!戦国大合戦』では、PTAの子供に見せたくない番組ランキング常連でもある『クレヨンしんちゃん』で、文化庁メディア芸術祭アニメ部門大賞受賞。

大人も泣けるアニメとして定評のある原監督作品ですが、実は、見逃していた作品がありました。それが「河童のクゥと夏休み」。遅ればせながらこの作品を観ました。

涙しました。

子供のためのファンタジーだけでなく、人間の醜さや恐ろしさも描き、胸に突き刺さる作品。

舞台は、この東久留米の黒目川周辺で、夏休みの間に巻き起こった出来事を描いた作品ですが、今ならまだその夏の風景に間に合うかもしれないと、自転車を走らせたくなった訳です。

…と言っても、3年前の夏の作品なんですけど、見たばかりだから感動は新鮮なまま。リアルタイム気分なのです。

黒目川

物語は黒目川の、もう少し下流からスタート。

主人公は、小学5年の上原康一。ひょんなことからこの川へ靴を落とし、拾いに行くのだけど、つまづいた石の中から、干からびた亀の化石のような物を発見。自宅にて持ち帰った化石を洗っていたところ、それが河童だと言うことに気づく。

よく出てくる通学路と、化石のような河童を見つけたのが、この川辺。非常にリアルに描かれています。

ベンチ

犬の散歩の途中で、同級生の女の子と出会うベンチ。これも、そのまんま。

坂道

自宅方面へ続く坂道。これも、映画のままです。

落合川

東京にしては、まだ自然の残る東久留米。でも、河童の目からみれば、全然自然じゃないと言います。ここは、自分たちの住んでいた川や沼を埋めたてて作られた街。

沢頭湧水

少年が、「ここら辺なら昔とたいして変わらないんじゃない」と河童を連れて行ったのが、落合川の上流、南沢にある「沢頭湧水」。こんこんと水が湧き出し、環境省が選定した「平成の名水百選」に、東京都で唯一選ばれている場所です。

河童にも少しはマシと言われた場所。こういうところが、身近にあるというのは幸せな事なんでしょうね。

秋の中に、一瞬だけ幻のように現れた夏の光景。そんな中で、河童のクゥとすごした夏休みを、アルバムのページをめくるように、自転車で追いかけてみたのでした。

地図

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