ラファエル前派展(森アーツセンターギャラリー)

ラファエル前派

昨年末から通い始めた美術館めぐりの中で、
面白さとしては上位に来るのが、「ラファエル前派展」。
同じ六本木ヒルズの森アーツセンターギャラリーで、
アンディー・ウォホール展と同時に開催されていますが、
個人的には、こちらの方が良かったです。

まず、ラファエル前派とは?

1848年、ロンドン。
若い作家たちは、ラファエロを規範とする保守的なアカデミズムに反旗を翻し、
それ以前の初期ルネサンス美術に立ち返るべく「ラファエル前派兄弟団」を結成。
古典的な形式や慣例にとらわれない彼らの芸術運動は、
英国のアート界にスキャンダルを巻き起こしました。

キリストはこう書くべき、天使はこう書くべきという
古い保守概念を打ち破り、自由な概念で描こうという物で、
しかも抽象画じゃなく、超写実主義なのにアバンギャルドなのが面白い。

受胎告知

例えば「受胎告知」
マリア様に天使が舞い降り、聖霊によってイエスを身ごもることが告げらる
…というシーン。
いろんな画家が描いていますが、僕が倉敷の大原美術館で観たのは、
エル・グレコによる、この作品。
いかにも宗教画と言った感じです。

受胎告知

しかし、ダンテ・ガブリエル・ロセッティが描いた受胎告知はこちら。
「見よ、われは主のはした女なり(聖告)」

天使ガブリエルに翼はなく、部屋のベッドで怯えるように告知を聞くマリア。
そのシーンをリアルに描いたらどうなるのか?
受胎告知の概念を壊すこの作品は発表直後から多くの非難を浴び、
買い手がついたのは3年も後のことだったそうです。

その他、キリストは大工の息子という事で、
大工の筋肉の付き方などを研究し、リアルに描き、
キリストと言われなければ、わからないほど、力強いです。

ペグウェル

写実的なラファエル前派。
こちらは、
ウィリアム・ダイス「ペグウェル・ベイ、ケント州-1858年10月5日の思い出」

世界初の写真が撮られたのは1824年、
その時期に、写真にも劣らないこんな絵が描かれていたのです。
今であれば、写実だったら写真でいいじゃないかという事にもなるだろうけど、
当時はモノクロしかなかったろうし、
幕末の写真を見ればわかるけど、かなり粗い。

となると、繊細な描写でカラーで風景を再現したこの一枚は、
当時の写真を上回ったリアルだったんじゃないだろうか?

良心のめざめ

そして、もう一つ面白いのが、この「ラファエル前派」というグループ。
中がぐっちゃぐちゃで、不倫、浮気、女性の取り合いなど、
昼ドラもびっくりのどろどろ具合。

その言い訳的な物も、絵に込められていたりします。

ウィリアム・ホルマン・ハント「良心の目覚め」

裕福な男性に囲われている愛人が、自分の生き方の間違いに気づき、
立ち上がる瞬間を描いたもの。

実は、ハントは、この絵のモデルのアニー・ミラーを妻にすべく、
貧困層から救い出して教育をし
上流社会に出ても通用するレディにしようと試みていました。

しかし彼女は、別の爵位を持つ男性のもとへ嫁ぎ、玉の輿に乗ります。

ハントも彼女の事を、モデルとして絵の中に閉じ込める事は出来ても、
自分の物にはならないと予感していたのでしょう。
そんな心情を、この絵に込めて描いています。

別れを予感した女性を目の前にしながら、
黙々と筆をとっていたなんて、なんだかせつない。

こんな風に、絵を見ながら、そこに込められた物語を推察し、
脇に添えられた解説文を読むと、謎解きが。
しかも、その裏にうごめく、画家達のどろどろの人間関係。

絵を通して、その昼ドラのようなドラマが浮かび上がり、
今までにない、絵を見る面白さがありました。

僕も絵画好きの方にアドバイスを貰ったのですが、
もし、ウォーホールと、ラファエル前派展を1日で観に行くなら、
ウォーホルを観てから、ラファエル前派展の順番で観た方がいいです。

僕の作品の裏には何も無いという、単純に感じるウォーホルがあり、
裏にいろんな事が込められ隠されている、ラファエル前派。
たぶん逆だとウォーホルが物足りなくなりそうな気がします。
そしてウォーホルの方は、お客さん達の方も集中力を切らしているので
引き込まれるラファエル前派を、後に観る方がいいような気がするな。
わからないけど、たぶん。

     

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